グレ教員の日々の感想

学校嫌いな小学校支援学級教員。日々の思いを忘れないように書くブログ。子育て、学校、読んだ本とか。専門は発達障害支援。

「学校の時間対効果を見直す」を読んだ感想 うちの学校の職員全員読んでほしい

 

学校の時間対効果を見直す! ―エビデンスで効果が上がる16の教育事例

学校の時間対効果を見直す! ―エビデンスで効果が上がる16の教育事例

 

本の概要

 

学校現場では、漫然と「これまでやっていたから・・・」といった理由で続けられているものが多数ある。

「宿題を出す」ことや「授業の終わりに振り返りをする」

これらは、本当に効果があるのか?

また、「ICT」や「協同学習」など、「よさそうだから」など新しい活動もやるかやらないか、という選択も入ってきます。

これらは、本当にやる意義があるのか?

本書では、これらの活動に「時間対効果」エビデンス(科学的根拠)」の2つを軸に教育現場の「その活動はやる意義があるのか」を分析する。

 

読み終えた感想

割と待ってた内容。

学校現場には、「エビデンス」とか「時間対効果(費用対効果)」の感覚が、まったくありません。

なにかを「やる」ことや「やらない」決定をする際に材料となるのが、「これまでやってきたから」と「周りの学校もやってるから」といった思考停止が横行しています。

 

そして、ビジネス書ではこの手の話、結構あったと思うんですけど、教育書ではかなり珍しいのではないでしょうか。いろんな人に読んでほしい内容になるかと思います。

 

エビデンス」について

経験則ですが、科学的思考に基づいて物事を判断する意識をもっている学校職員が少ないのが、現場にあたっているのが現状かと思っています。大学で研究活動をやっていた人が少ないのも一端かな~、と思っていますが。(教育学部では研究をしない、論文を書かないところも多いですよね)

その中で、社会全体でも「エビデンス」という言葉が聞かれるようになり、教育書(教員向けの本)にもでてくるようになったか~、と思いました。嬉しい限りですね。効果量(effect size)という言葉を教師向けの本で見る日が来るとは思いませんでした。

 

「時間対効果」について

上記のエビデンスから「期待できる子どもの学習効果」について「コスト(教師の労力やお金、時間)がどれだけかかるか」を考え、実際にやるかどうか議論する材料にすべしと本書では示唆しています。

 

これまで「学習効果」について論じた教育書や研究では、最終的には学校現場での実践を提案するわけですが、けど、それらの多くは「それを実施するコスト」を無視して提案されているものがほとんどでした不十分なもの(と私が感じた)がほとんどでした。

 

しかし、実際の現場では、ほんとに数え切れないほどの学習活動や行事が動いており、「ひとつの活動に避ける時間や労力(と予算)」が有限なのです。なので、「時間対効果」を学校に入れようとするこの本の主旨はとてつもなく意義のあるものだと思います。というか学習効果の議論するのにコストの概念は必須だと思うのですが、なぜだかあまり議論されてきませんでした。

 

学校での働き方改革が進んだから出た本?

この「時間対効果」のある仕事を~!ってビジネス書や自己啓発本の定番というか前提となる考え方ですよね。

これまで、教育会で「時間対効果」が全く議論されなていないのは、「これまで教員という「労力」が無限に調達できた。」からだと私は思っています。教員には残業代がつかず(給特法)、教員に「終わるまでやれ」と命じれば、命じられた教員は「深夜11時まで残ろうが、土日に出勤しようが」、終わるまでやっていたのです。つまり、コストがかからなかったのです。(実際はこれまでも、教員が疲弊したり授業準備の時間が削られたりと、見えないコストはかかっていたはずですが)。

ちなみに給特法については、内田先生の著書が詳しいです。以下は私の内田先生の著書のレビュー

 

karly1008.hatenablog.com

 

しかし、教育現場にも「働き方改革」が持ち込まれたことで、学校現場は「何を残し、何を削るべきか」の議論を余儀なくされているのです。その中で「時間対効果」の考え方は少なからず、各学校現場単位では出ていたのではないかと推測します。

それらのひとつの道しるべとなるこの本はとても価値のある著書だと思います。

 

問題を解決する本ではないです。

ビジネス書に近い。「問題が起きたらこうやって考えるといいよ」って考え方を提案しているだけの本です。事例に対して明確な回答(こうすればよい)が示されている事例のほうが少ないので、基本はこの本の考え方を基に自分で考えて、探索して解決法を考えなければいけません。

というのも当たり前の話で、ひとくちに学校と言っても実態は本当に多種多様であり、抱える問題も一緒ではないですからね。例えば「宿題を出すべきか出さないべきか」の事例でも、まとめの項ではなんだか煮え切らない言い方になっているように感じます。これはある意味当然で、宿題の意義が学校によって全く違うものになってくるからです。ただ、宿題の学習効果自体は小さいものである(やらないよりはやったほうがある)という科学的根拠が前提ですけどね。

 

また、本書のエビデンス」の軸は「子どもに学習効果があるか」になっているため、「指導案がいるべきかいらないべきか」など、現在のエビデンスからは結論を出せないものも多々ありました。教育分野の研究って最終的には子どもの学習効果に帰結しますからね。業務の事務処理の効果などはかなり議論が難しいとは思います。(ただ、時間対効果の考え方は必要なことです。)

 

大事なのはその考え方「何かエビデンスはあるか?」「それにかかる労力と期待できる効果はどれくらいか?」この感覚をもってやる教員が増えることを、一教員としては思います。

 

心に残った部分

 

「基本的には、宿題をする児童・生徒ほど高い学力であること、宿題の量よりも学習方法や保護者の関与のほうが学力に与える影響が大きいことがわかりました。」

P.53「テーマ4 意見真っ二つ!? 宿題は学力向上を促すか?」より

 

宿題のエビデンスを示した事例です。このエビデンスをもとに「宿題は出すべき」っていう人と「出さなくてよい」っていう人どっちもいそうですね。

ちなみに私は「意味のある宿題になるように出す」ほうがよいのでは、と思っています。学校の宿題でありがちな「ノートに1ページ漢字書き取り」や「何回音読」っていうのは「作業化」して効果が薄くなるので辞めたほうがいいと思っています。

ただ、学校というのは横のつながり(同学年の違う学級)がすごく大事なので、そこはしっかり話し合って決める必要があるとは思っています。

 

 

「単にICT機器を導入したからといって児童・生徒の学力が大きく向上するとは言い切れません」

P.64「テーマ6 増えてきたICT機器の「時間対効果」はいかに?」より

 

ICT機器はツールですからね。その勉強の目的に合わせ、「これまでの方法よりもICTを使ったほうが効率がいい」ってものから導入しないとね。

あと、多くの公立学校で問題になるのがICT機器少なすぎ問題ね。タブレットが全学で5台とかね。本当に全校生徒にわたすことができたらいろいろとできること想像は膨らむんですけど。知り合いのお子さんが通う私立小学校では、一人1台iPadが支給され、宿題や課題はタブレットを介して配布・提出するそうです。そこまで本気で取り組めたら時間対効果も高くなりそうですよね。

 

まとめ

結構読みやすくすぐ読める。エビデンスとか費用対効果とか考えたことのない同僚や先輩教員の机に置いてみては?(笑)