グレ教員の日々の感想

学校嫌いな小学校支援学級教員。日々の思いを忘れないように書くブログ。子育て、学校、読んだ本とか。専門は発達障害支援。

「スマホ脳」を読んだ感想

 

スマホ脳(新潮新書)

スマホ脳(新潮新書)

 

 

 

2019年、スウェーデンでベストセラーになった精神科医アンディシュ・ハンセンの著書。

読んだので簡単にまとめと考察。

基本読みやすかったですよ。外国人が書いた本の訳書って読みやすい。翻訳者の技術によるのかもしれんが。

 

本の気になったとこのまとめ

 

結論からいうと、スマホタブレットは我々の脳に様々な悪影響を与える可能性が高い、ということがこの本の主旨。

それだけ聞くと、「スマホが台頭した当時からよく言われていること」にしか聞こえないんだが、この本は、人間の「生物学的」機能の構造からスマホがなぜ、我々の生活に影響を与えるのかを考察していて興味深い。

生物学的、っていうのはつまり我々の祖先が数千年前からもっている、「生存するための反応」のことを筆者は言っている。

我々人類の脳は数千年前から大きくは進化していない。10歳までに半数が死ぬような状況の頃からだ。生存率がかなり低い頃から備わっている、自身の生命を守るようにプログラムされた生命反応は、数千年経った現在でも我々の体に残っていると筆者は伝えている。

筆者は生物学的機能をいくつかあげ、現代社会でのスマホとの関わりをあげているが、私はその中で大きく2つの軸があると感じた。「ストレス(HPA系)」と「報酬(ドーパミン」だ。

 

ストレス

我々が日々感じているストレスも、野生で生き抜くために生物としては必要だった機能だったらしい。

周囲の危険に敏感にならないといけなかったから、ちょっとした出来事からも「戦うか逃げるか」を判断しなければならないのだから、危険を感じたら反応が起きるのは生物として当然だ。これをHPA系というらしい。

だが、我々の体に残るこの反応は、現代社会の生活では著しく不和を起こす。今では命のかかわる心配をすることは日常では存在しない。だが、心理社会的なストレスを受けると、野生生物と同じように我々の脳はシステムを発動する。それが仕事の締切が近かったり、SNSの「いいね」があまりつかないといった理由だったとしても。

現代のストレスの問題として、それが長期に継続すること。もともと人間の脳は「生殖行為・食事・睡眠」を後回しにして、今のストレスから逃げたり戦ったりするようにできているが、長期にストレスを受け続ける現代社会でうつ病が増えるのはごくごく自然なことだと筆者は述べている。

現代、スマホSNSなどによって社交をしている人たちは、継続してストレスにさらされていると筆者は伝えている。見なくても良い同年代のキラキラ投稿などを見続けたり、自分の投稿に「いいね」がつくかつかないかなど。

 

スマホを見ることへの報酬(ドーパミン)について

報酬についても。野生の動物にとって「新しい情報」というのにドーパミンがでるようになっているのは生物学的には自然のことらしい。なぜなら「多くの情報をもつこと」はそれだけ自身の生存確率をあげることだから。このことを考えると、人類が無限に情報を出してくれるスマホに依存するのはある種当然のことと言える。

厄介なのは、FacebookTwitter、といった大手SNS会社は、その我々の脳構造を理解して、依存させるようなシステムを作り続けているということだ。SNSのいいね機能はまさしくそれで、いいねの増加をスマホを下にプルダウンしないと行けなくする仕様は、スロットマシンのレバーを引くことと大差ない。

ちなみに、10代は脳の制御機能(前頭葉)が機能的に未発達(目先の快楽を優先してしまう)であり、大人よりもよりいろんなものに依存しやすい。10代がSNSスマホ依存になるのはある種必然である。10代は依存症になりやすいからこそ、アルコールやタバコは10代に規制をかけているのに、スマホは制限されないことに筆者は警鐘を鳴らしている。10代は感情の起伏が激しくてストレスも感じやすいことも相まって、子供にスマホをもたせるのは危険なことである。かのAppleのスティーブジョブスも自分の子供には「iPadの使用を制限した」ことから、作った人たちがその危険性を理解していたのであろう。子供の学習にタブレットが有効だ、という意見もあるが、筆者は「上位の優秀な子たちをより優秀にする可能性はあるが、それ以外の子たちにはだいたい悪影響だろう」という認識であると私は解釈した。

対策

スマホに飲み込まれない対策としては、シンプルに運動がいいらしい。ストレス対策とデジタルから離れるという意味で。

様々なスマホ研究が各国で出されているが、正直追いつかないのが現状だ。研究のスピードよりデジタルの発達のスピードのほうが早いからだ。もしかしたら、人類の脳がスマホに対応するかもしれないし、そういった研究が出るかもしれない。人間のためにテクノロジーがあるのであって、飲み込まれないような生き方をしていくべきだろう。

 

 

本の感想

正直、「こわっ」と思いましたね。

私自身、間違いなく、「スマホ依存」状態ですね。スケジュール管理、連絡手段、娯楽、ほとんどをiPhoneiPadで行っているので、もし明日からデジタルが手元からなくなったら、まぁ禁断症状出るでしょうね(笑)この「スマホ脳」も実際kindle版で読んでいますし。

実際読んでみると、見に覚えのある現象がたくさんあります。スマホをいじりながら、家族の話していても半分くらいは聞いていなかった、みたいなことって結構あるし。本書でも述べられてた、スマホを使い続けることによる集中力の欠如や注意の散漫もとても実感していて、YOUTUBE動画を見ながら関連動画をスクロールし探していますし、Web記事もどんどん次の記事を探している状況。

 

また、「電子書籍での読書やPCでのメモ取りは、紙よりも脳への定着が悪い」って話について。私は1〜2年ほど前に、読書については紙の本からkindleにほぼ移行したんです。本棚の場所を取らないとか、いつでも読み返せるってメリットもあるんですが、まとめがやりやすいな、と思っていて。kindleって気になったページをスクショしてマーカー入れてアプリのGoodnoteに保存。みたいな読書やっていて、あとから見直すときにとても便利なんだけど、読んだ直後は記憶にあるけど、しばらく経って思い出そうとすると、何を書いてあったかあんまり頭に入っていない。もちろん紙の読書のときもそれはよくあるんですけど、なんかkindleに変えてからより思い出せなくなっているようなきがしていて。そしたらこの著書の一つのトピックを読んで納得。

人間の脳は節約好きなので、「(iPadに入っているから)覚えなくて良い」と脳が認識すると、頭に残りにくくなるらしい。これを「グーグル効果」とか「デジタル性健忘」というらしい。筆者が学生のタブレット学習をおすすめしていない理由の一つがそれらしいが。

 

本当は10代に読んでほしいけど、今の10代ってもうこの本を読むほどの集中力ってないんだろうな。

 

ちょっと怖くなった私は、twitterアプリをiPhoneのホーム画面から削除した(笑)まぁ何が変わるかはわからないが、この本を読んで何もしない、ってのがそもそも怖かった。

おそらく社会全体としては、人類の集中力は下がっていく傾向は止められないんだろうなあ、と。だからこそ、集中力を維持できたまま大人になれる子は希少価値があるかもしれない。自分の子供に安易にスマホを与えないようには意識したい。そのためには自分がある程度コントロールできないと話にはならないが。

 

現代、学校の授業のあり方についての言説として、「スマホ禁止はおかしい」「グーグルで調べられる知識は学ぶ意味が薄い」という言説に、前々から微妙な感触を覚えていたが、よりその感覚はこの本を読んで強くなった。

 

おそらく日本よりも諸外国のほうが、学校へのスマホ持ち込みが緩いところが多いと思う。日本もそうすべきだ、っていう意見もわからなくもない。「スマホは存在するんだから、スマホをもっていても上手に使える子供を育てるべき」みたいな論ってめちゃくちゃ聞くからね。では、今の大人に「上手にスマホを使えている」人がどれだけいるのだろうか。この本に書かれている通り、「スマホに飲み込まれている」大人が大半だろう。子供たちを守るために、今の大人に何ができるか、今一度考えたい。デジタルが好きで、デジタルの良いところをたくさん知っているからこそ、改めて。