発達障害のある子どもと周囲の関係性を支援する を読んでの感想
久々に本の感想記事。
著者について
本はいくつかの章に分かれており、章ごとに著者が違うオムニバス形式です。著者は、言語聴覚士、学校教諭、ソーシャルワーカー、心理士、作業療法士など様々な業種の方が執筆されています。
その中でも編集著者の野口明菜氏は、株式会社LITALICOの研究所所長を務められており、インクルーシブ教育などに力を入れて活動されている方です。
私は数年前からTwitterで野口氏の発信を見ていますが、障害者や性的マイノリティーの社会での立ち位置について、既存の社会システムのあり方そのものに疑問を投げかけ、発信しているような印象をもっています。ご自身が海外に住まわれていた経験もあり、日本ではあまり聞かないような、だけどクリティカルな意見を多く発信されています。日本の既存のシステムでしか生きてこなかった私にとっては、野口氏の発信を受け取ることで日々勉強になり、固定観念にとらわれない柔軟性を得られていると思っています。
今回、野口氏が編著の発達障害支援の本が出るということで、速攻でポチって読みました。
本の概要
発達障害の傾向のある子供の事例を用い、支援の方法を紹介しています。著書の特徴としては、よくある「子供の問題行動」にフォーカスを当てるのではなく、関係者(学校・幼稚園の担任、保護者、心理職、主治医、など)の関係性を考えながら、支援をしていくという視点を重視しています。
第一章・二章では、編著の野口氏がコミュニケーション支援のポイント(と支援のフォーカス)を提示しています。
<コミュニケーション支援のポイント>
#①「わからないから知りたい」からスタートする
#②「不適応行動」は本人からしたら「適応行動」
#③誰かに原因を求めても解決しない
#④キラキラポイントに目を向ける
#⑤コミュニケーションを取りたくなる環境をつくる
#⑥チームで支援する
<コミュニケーションのズレを支援するためのフォーカス>
#A本人理解支援
#B本人のスキル習得支援
#C環境調整支援
#D関係性への支援
#Eシステムへの支援
3章以降の各著者の事例紹介でもすべて、1章・2章のポイントを抑えて示されています。これにより、どの支援者の立場からでも重要なポイントであることがわかることと、同じ視点をもって事例を読めるので、著者が代わることで文風が変わっても読みやすくなっていると感じます。
本の感想
めっちゃ大事。だがめっちゃ難しい視点
この本を通して強調されている、「関係者全体での関わりの視点」の重要性については完全同意です。子供は周囲との環境の中で生活しますからね、その中で一人の支援者のみ対応を変えたところで子供にとって良い結果が起きるとは思いません。
また、「なにが問題行動かを決めているのは社会側」という視点も忘れてはいけません。著者が1章の末にこう述べています。
マジョリティが「正しい」と考えるコミュニケーションの様式を「マジョリティ」に押し付けることなく、お互いにお互いのコミュニケーション様式を学び合い、適応しあっていくことこそが、コミュニケーションにおけるズレを解消させていく鍵なのかもしれません。
著書内でも指摘されていましたが、確かに特別支援学級で指導される「コミュニケーション指導」って「通常級でうまくやるために」指導することがとても多いんですよね。「友達が叱られているときには笑わない」とかね。私も正直よくやっていました。だけど、それってたしかにジョリティがマイノリティに合わせるのを強要しているだけなんですよね。コミュニケーションは相互のものっていう視点、支援者は忘れてはいけないポイントだと思います。
小学校の特別支援学級担任の立場から見た難しさ。
まず、この本の価値観を共有することが本当に難しいかな。
通常級に支援級の子が交流に行ったとき、「支援級の担任が全部指導してよ」っていうスタンスの担任の先生もまだまだいらっしゃいますし。
また、「あそこは保護者が受容してないからな」「子供の特性(障害)だからしょうがない」といった視点で支援をされている方も、(私も意識していないとそうなってしまうことも多々あります)多いですからね。#③誰かのせいにしても解決しない にあるように、誰かのせいにする思考はつい持ちがちなので、意識して自分の中から排除していくべきかと思いましたね。
あとは、その関係者と連携を取ることが本当に難しい。
業種が違くていつも同じ職場にいないことも多々ありますし、同じ職場にいてもなかなか支援会議などの情報共有の時間を取るのが難しいなって思います。
管理職とか小学校の担任の先生って、基本的に勤務時間内の業務量って平時で飽和していますからね。支援会議って勤務時間外に取らざるを得ず(残業代出ないっす勿論)、教員の待遇改善を意識している私としては、非常に情報共有の時間を捻出するだけでパンパンで、価値観の共有までの時間が取れないな、って。それも相まって、支援者間の連携が取れていないケースが多いんじゃないかな、って思ってます。
支援者全員がこの著書読んでくれたらいいんですけどね。
今後支援者間の支援の目線を共有していく中では、やはりZOOMとか、というかSLACKとかでもいいんだけど、もう少し支援者間で連携するハードルを下げること。あと、学校目線だけいえば、通常業務を削減して支援者の余裕を増やしていかないと理想論で終わってしまうな、って思っています。
心に残った言葉
第二章 野口明菜氏
どんなに対等さを意識していたとしても、アセスメントをするという行為が自分を高い位置においていること、そしてそのことは被支援者と支援者の関係性に影響していることを認識しておく必要があります。
その他個人感想。
・本自体は他の本に比べて読みやすいっていうと、そうでもないかも。内容じゃなくて、読みやすさでいうとね。なんだろ、文字の間隔とかなのかなぁ。イラストとかあってわかりやすく工夫はしてくれてるとは思うんだけどね。
内容はその分濃いと思うけど。
他の業種はわからないけど、教員っておそろしいくらい「本読みません」って人に会う率高いんだよね。それ聞くたび(あ、察し・・・)ってなるんだけど。そういう人たちはこの本読まないだろうな、とは思う。それもまぁ私がこの業界悲観してるとこのひとつでもあるんだけど。
・kindle版出してほしいな〜。最近の読書はkindle版買ってスクショして書き込みして本の内容まとめてるから。自分が紙の本から離れすぎてててやばいな、って話です。はい。
まとめの感想
支援者みんなに読んでほしい。(けど正直職場の人達は読んでくれそうにない)
支援事例は参考になると思う。
あと野口氏のTwitterおすすめです。